2013年度修士論文

2011年東北地方太平洋沖地震本震及び最大余震における大阪堆積盆地での長周期地震動

佐藤 佳世子


2011年3月11日14時46分に2011年東北地方太平洋沖地震(Mw9.0)が,15時15分にその最大余震である2011年茨城県沖地震(Mw7.9)が発生した.本震の震源から大阪堆積盆地までは700km程離れており,震源近くでの最大震度7に対し,大阪堆積盆地内の最大震度は3と小さかった.それにも拘らず大阪湾岸の超高層ビルで被害が生じた.本研究では,この原因となった大振幅を伴う周期数秒以上の長周期地震動の特徴を調べるため,まず大阪堆積盆地内外の地震動記録を可能な限り収集し,解析を行った.結果,長周期地震動の周期帯域で比較すると,大阪堆積盆地内の湾岸地域では,本震,最大余震ともに,周期7秒の地震動の振幅の大きさが関東平野の地震動の振幅に匹敵していたことがわかった.

これまでの研究から,大阪堆積盆地内では厚く柔らかい堆積層の影響で長周期地震動の振幅が増幅し,継続時間が伸長することが知られている.本研究対象の地震でも,盆地内の堆積層観測点での記録と盆地外の岩盤観測点での記録を比較することで,同様の特徴を確認できた.また,長周期地震動の振幅や卓越周期を地域毎に見ると,最大振幅が観測されたのは大阪湾岸地域で7秒程度が卓越,次いで生駒山と上町台地に挟まれた河内盆地で,5〜6秒の地震動が卓越した.一方,上町台地上では卓越周期は3秒程度で,振幅も湾岸地域に比べると小さかった.卓越周期の空間分布は既往研究で推定された堆積層の厚さ分布と整合的である.震源と大阪堆積盆地を結ぶ地域での周期4〜10秒の擬似速度応答スペクトルを片岡ほか(2008)の距離減衰式と比べると,関東平野,濃尾平野,大阪堆積盆地の堆積層観測点で予測値を大きく上回り,振幅が増幅する様子が見られた.増幅率は各平野,盆地内でも大きく異なり,特に大阪堆積盆地内では最大30倍近い差があったことがわかった.

さらに大阪堆積盆地内で最大振幅の長周期地震動が観測された観測点の卓越周期である周期7秒の地震動に着目して調べた結果,岩盤観測点の長周期地震動にも周期7秒の成分が多く含まれること,濃尾平野−大阪堆積盆地間の岩盤観測点で,片岡式より大きな値が観測されたことがわかった.そのため,観測された大阪堆積盆地での大振幅の長周期地震動に対して,大阪堆積盆地の堆積層特性だけでなく,震源から大阪堆積盆地までの伝播経路特性も無視できないと考えられる.

そこで,特に伝播経路特性に着目して,観測された大振幅の長周期地震動の成因を調べるために,差分法を用いて震源から大阪堆積盆地までの周期4〜10秒の地震波動場の再現を試みた.地下構造モデルは全国一次地下構造モデル(Koketsu et al., 2008,2012)を基に構築した.最大余震の震源モデルには震源近くの観測点で波形が合うように推定したモーメントレート関数をもつ点震源を使用した.濃尾平野から大阪堆積盆地に至る地域での地震動の特徴や,関東平野,濃尾平野,大阪堆積盆地の堆積層での地震動の振幅の増幅と継続時間の伸長など観測記録の特徴が定性的に再現できた.ただし,周期別に見ると,大阪堆積盆地内では周期7秒の地震動の振幅がやや過小評価となった.

この結果を踏まえて,本震時の長周期地震動シミュレーションを行った.震源モデルとしてAsano and Iwata (2012)で推定された,周期0.1〜10秒の地震動を説明する4つの強震動生成領域(SMGA)のうち福島県沖〜茨城県沖に位置する2つのSMGAの重心緯度経度と破壊開始時刻にそれぞれ点震源を仮定した.大阪湾岸などで観測に見られた2つの大振幅の波群を概ね再現することができた.大阪堆積盆地での大振幅の長周期地震動は,主としてそれら2つのSMGAを震源とする地震動が伝播経路特性,盆地特性により増幅されて生成されたと考えられる.