アスペリティモデルとクラックモデルの関係

入倉孝次郎・三宅弘恵(京都大学防災研究所)


全文章と図面が掲載されたPDFファイルはこちら → asperitycrack.pdf (0.25MB)


 本論では,アスペリティモデルとクラックモデルの短周期レベル(加速度震源スペクトルのフラットレベル)および長周期レベル(地震モーメント)の評価をBoatwright (1988)に基づいて行い,壇・他(2001)によって提唱されているアスペリティの式を用いた応力降下量の推定方法と入倉・三宅(2001)が提案したレシピにおける応力降下量の推定方法の関係をまとめる.

 入倉・三宅(2001)の提案している計算方法は実際には多重アスペリティモデルではなくて多重クラックモデルと呼ぶべきものである.一方,壇・他(2001)の方法はアスペリティでの応力降下量の与え方など,Das and Kostorv (1986)に基づいたアスペリティモデルを導入しているが,個々の要素断層のすべり量と実効応力の関係にBrune (1970)の式を用いており、部分的にomega-squared modelを前提とするクラックモデルの考えが混入しているいるように見える.
 ここでは,Boatwright (1988)と同様に,Das and Kostrov (1986)による動力学震源モデルに基づいた単一円形アスペリティモデルを用いて短周期レベルおよび長周期レベルの関係を表現し,そしてそれらの関係を1つの円形断層内に複数の円形アスペリティが存在する場合に拡張して多重アスペリティモデルに対する短周期および長周期レベルの関係の定式化を行った.その結果,総地震モーメントMoを一定とし,アスペリティの面積の総和Saも一定とすると,アスペリティを1つとしても複数に分割しても,アスペリティ部分の応力降下量は一定となり,短周期レベルも一定となることが分かった.この関係は,アスペリティでのみ応力降下が生じ背景領域では応力降下がないことを前提としたとき,壇・他(2001)による方法が有効なことを意味している.
 一方で地震時の震源断層過程は必ずしもDas and Kostrov (1986)のアスペリティモデルのように単純化された応力降下の分布は成り立っておらず,実際には,波形インバージョン結果に基づいて構築された総地震モーメントとアスペリティ面積やそこでのすべり量などの経験的関係式はDas and Kostrov (1986)の仮定したモデルを満足していない.したがって,特性化震源モデルを構築するにはDas and Kostrov (1986)のモデルのモディフィケーションが必要となる.
 以下に,Boatwright (1988)に基づいて断層面に1個のアスペリティが存在するときのアスペリティモデルとクラックモデルの関係,および複数のアスペリティが存在するときの多重アスペリティモデルとクラックモデルの関係を整理し,特性化震源モデルを構築する手続きについて述べる.


参考文献
 Boatwright (1988). Bull. Seism. Soc. Am., 78, 489-508.
 Brune (1970). J. Geophys. Res., 75, 4997-5009.
 壇・他 (2001). 日本建築学会構造系論文集, 545, 51-62.
 Das and Kostorv (1986). Earthquake Source Mechanics, AGU Monograph, 37, 91-96.
 入倉・三宅 (2001) 地学雑誌, 110, 849-875.


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