Reporter: | 岩村虹希 |
Title: | Dhakal, Y.P., Kunugi, T., Yamanaka, H., Wakai, A., Aoi, S., and Nishizawa, A. (2023). Estimation of source, path, and site factors of S waves recorded at the S-net sites in the Japan Trench area using the spectral inversion technique. Earth, Planets and Space, 75, 1. https://doi.org/10.1186/s40623-022-01756-6 |
Summary: |
スペクトルインバージョン法を用いて、S-net地震記録のS波水平成分から地震の震源スペクトル、経路減衰、サイト増幅係数を得た。 2016年2月から2021年10月までに発生した1500以上の地震について、S-net観測点のX方向(円筒形圧力容器の長軸方向)とY方向(X方向に垂直な方向)の2つの水平成分の波形データを使用し、Takagi et al. (2019) の手順に従って座標変換を行った。最終的な記録は、元の記録のベクトル最大地動加速度が5~50 cm/s2、震源深さ70 km以浅、震源距離20~200 km、0.1~20 Hzのすべての周波数でSN比が3より大きいこと、を基準として選ばれ、605の地震から6326の記録が得られた。本研究では観測されたS波加速度フーリエスペクトルを震源スペクトル、経路減衰、サイト増幅係数の積で表し、常用対数を取ることで線形化した後、最小二乗法で解いた。最小二乗法の拘束条件にはYamanaka et al. (1998) や Nakano et al. (2015) のアプローチを採用した。 震源スペクトルは概ねオメガスクエアモデルに従った。得られた震源スペクトルから地震のモーメントマグニチュードを推定し、F-netのカタログと比較すると、差は主に±0.3マグニチュード以内であった。応力降下量は全体として深さとともに増加した。Qs値は周波数に依存した。値は3Hzまでは線形的に増加し、3~10Hzではほぼ一定の値をとり、10 Hzを超えると再び緩やかに増加した。対象領域の近い他の先行研究と比較して、本研究で得られたQs値は同等かそれより大きい値となった。これは、S-netサイトが他の研究の陸上サイトと比較して太平洋プレートに近く、高いQs値を持つ太平洋プレートのかなりの部分を地震波が通過するためであると考えられる。 サイト増幅特性のピーク周波数は約0.2~10 Hz、ピーク増幅係数は10〜50の範囲であり、地点ごとに異なる値となった。浅水域のサイトは、より深いサイトの値と比較して低周波数での増幅が比較的小さかった。ほとんどのサイトのスペクトルは、約10Hzより高い周波数で減少傾向を示した。J-SHIS速度モデルを用いて地震基盤上で計算された垂直入射SH波の理論的増幅係数は、2つの浅水点でのより広い周波数でのインバージョン結果と同等で、より深いサイトでは小さい値をとった。この浅水点での結果は、本研究で得られたサイト増幅係数が沖合地域の速度モデルの検証と改善の基礎となる可能性があることを示唆している。計測機器が堆積物に埋設されていない約30の観測点において、約 4~10 Hzの周波数に計測機器の固有振動由来であると考えられる顕著なピークが含まれていることがわかった。そこで、水平X成分スペクトルのみを用いてスペクトルインバージョンを実行すると、X,Y両成分の記録を併用した場合と統計的な意味で同じ結果が得られ、顕著であったピークが緩和された。空間分布を見ると、低周波数のサイト増幅係数は、マルチチャンネル反射法地震探査から得られたP波の堆積層での往復走時の分布とほぼ同様のパターンを示した。高周波では、日本海溝外縁の多くの地点でサイト増幅係数が低周波数のサイト増幅係数よりも大きく、往復走時が小さかった。このことから、海溝外縁部で堆積物の厚さが比較的薄い可能性が示唆される。 以上の結果は、沈み込み帯地震の震源特性やこの地域の地下速度モデルの改善に関して、より詳細な研究の基礎になることが期待される。 |