Reporter: | 久保久彦 |
Title: | Hiroyuki Noda and Nadia Lapusta (2013) Stable creeping fault segments can become destructive as a result of dynamic weakening Nature, 493, 518?521, doi:10.1038/nature11703 |
Summary: |
断層上では固着・地震性すべりを繰り返す部分(速度弱化領域)と安定すべりのみが生じる部分(速度強化領域)が空間的に分かれて存在しているとこれまで考えられてきた.しかし,2011年東北地震において安定すべり領域とされてきた領域に大きな地震時すべりが集中したという観測事実とこの考えは矛盾する.著者らは, 低速すべり時に速度強化(a-b>0)・高速すべり時にthermal pressurizationによる地震時弱化の性質をもつパッチと低速すべり時に速度弱化(a-b<0)の性質を持つパッチで構成される断層モデルを用いた,地震の繰り返し(地震時の短期的な挙動および地震間の長期的な挙動)のシミュレーションを行い,上記の観測事実がこの断層モデルによって定性的に説明できることを示した.この断層モデルではイベント間に安定すべりが生じていた領域(前者のパッチ)でも不安定すべり(地震)が生じることができる.各パッチの断層パラメータ(Rate dependencyやHydraulic diffusivityなど)は1999年Chi-Chi地震の断層で採取された試料に対する室内実験の結果を基にして設定している.シミュレーションの結果は,東北地震の他の観測事実やChi-Chi地震の観測事実(両地震に置いてすべりの小さい領域からの高周波地震波の放出されたこと,東北地震で潜在的に安定すべりしていた領域に大きな地震時すべりが集中していたこと,それぞれの地震の震源域で過去に発生した地震は地震時すべりの小さい領域に位置していたこと,東北地震における地震時すべりの小さい領域の再破壊など)を定性的に説明できている.
Chi-Chi地震の断層の岩石資料に対する室内実験結果を基にしたシミュレーションから東北地震の観測事実を説明するという流れは,設定した断層パラメータが東北地震の場合でも有効であるかはわからないということを考えると,少々疑問が残る.しかしながら,thermal pressurizationなどの動的地震弱化を考えると速度強化の領域でも大きな地震時すべりが生じえるというシミュレーションの結果自体は,2011年東北地震の震源過程を考える上で非常に興味深い. |