2000年度修士論文

京都盆地南東端部の地震動特性およびその地下構造 −地中地震計を用いた評価−

八木 政彦


本研究では、基盤構造の急変帯における地下構造の影響を定量的に評価することを目的として、京都盆地南東端部−黄檗断層付近−の地中観測点ひとつを含む4つの観測点記録を用いてのスペクトル解析による観測記録に見られる各観測点における地震動特性の把握、および本研究内での微動アレイ探査と既存の物理探査により推定された各種パラメーターを若干修正した数値モデルによる一次元波動論を用いて各点の地震動特性の数値的評価を行った。

地表観測点の地中観測点に対する振幅スペクトル比(以下スペクトル比)によるサイト特性の評価を行った。深発地震-ほぼ鉛直な入射-ではスペクトル比は地表面反射波による影響により2Hz程度にピークを持つ。観測点間の距離は最大1kmほどであるにもかかわらず、2Hzより低周波数側で観測点ごとのスペクトル比には大きな差が見られた。複雑な地盤形状を持つ観測点においては、東方から入射する地震と西方から入射するものに1〜2Hzにおいてスペクトル比に明瞭な差が見られた。地表面反射波によるスペクトル比のピークは必ずしも鮮明なものだけではなく、既存の物理探査によって推定されている基盤面が一次元でない構造であることからも地中観測点は散乱波ないしは地表面以外での反射波による影響を受けていると考えられる。ただし、堆積層内観測点の増幅特性のピークは0.5Hz程度にあり、方位依存性は断層近傍観測点に比べると弱く、近似的に水平成層構造であると仮定することができる。

比較的2次元構造による影響が少ないと考えられる2観測点(地中観測点上,堆積層内観測点)に注目し、一次元数値モデルを用いて地下構造による影響の定量的な評価を行った。堆積層内観測点におけるS波速度(以下Vs)構造を補足するためにアレイ微動探査による推定を行った。その他のパラメーターについては既存の物理探査による推定値を基にした。地中観測点と直上の観測点のスペクトル比を説明するVsの補正およびQs値の推定を行った。堆積層内の観測点においてはそのVs,Qsを用いて1Hz以下における増幅特性が基盤からの一次元の数値モデルによって説明付けることができ、Vs構造は微動探査による推定値との良い一致を得た。しかしながら、直下に複雑な地盤形状を持つ観測点記録においては一次元での議論は十分でない可能性がある。今後、比較的妥当なモデルが得られた堆積層内観測点と地中観測点上の地下構造の情報を用い、表層地盤による影響・基盤形状を加えた二次元構造によって黄檗断層近傍の震源方位依存性を評価する必要がある。