地震時における複数の断層間の動的なトリガリング
―2011年福島県浜通りの地震と2010年Darfield(ニュージーランド)地震―
田中 美穂
地震とは断層が破壊する現象であり,このとき複数の断層が破壊する場合がある.これらの断層の位置関係は平行又は共役であることが多く,平行でも共役でもない位置関係の断層が破壊した例は稀である.このようなものの例として,2011年福島県浜通りの地震(Mw 6.6)と2010年Darfield地震(Mw 7.1)が挙げられる.浜通りの地震では走向がおよそ30°異なる2条の正断層(井戸沢断層,湯ノ岳断層)が主として破壊した.気象庁による震源位置が井戸沢断層付近にあるため,井戸沢断層の次に湯ノ岳断層が破壊したと考えられる.Darfield地震では震源を含む逆断層(断層A)と東西におよそ30kmに及ぶ横ずれ断層(Greendale断層)が破壊した.複雑な破壊過程の詳細を明らかにするため,本研究ではこの2つの地震のそれぞれに対して,複数の断層面からなる断層モデルを用いて,強震波形記録を逆解析することにより震源過程を推定した.その際,(1)1枚目と2枚目の断層破壊の時刻差,(2)2枚目の断層の破壊開始点,(3)破壊伝播速度,の3つのパラメータの組み合わせを多数通り試し,赤池ベイズ情報量基準(ABIC)をもとに最適な組み合わせを決定した.また,1枚目の断層のモーメント時間関数を用いて応力場の時刻歴を計算し,2枚目の断層面上におけるクーロン破壊関数の時間変化(ΔCFF(t))を計算することによって,2枚の断層面の破壊の関係を検討した.
まず浜通りの地震に関しては,2条の断層の破壊開始時刻差が4.5秒,2番目に破壊した湯ノ岳断層の破壊開始点は北西よりの深い点,破壊伝播速度は2.04km/s(震源でのS波速度の60%)の組み合わせが最適解として選択された.どちらの断層においても推定された浅い領域のすべり分布は,Toda and Tsutsumi (2013)の地表踏査による地表変位量分布とよく対応している.湯ノ岳断層でのΔCFF(t)を計算した結果,井戸沢断層破壊の4.5秒後に湯ノ岳断層の破壊開始点で+0.8MPaとなった(見かけ摩擦係数μ’=0.8の場合).この結果から,井戸沢断層の破壊が湯ノ岳断層の破壊を引き起こしたと結論付けることができる.
次にDarfield地震に関しては,破壊開始時刻差は6.0秒,2番目に破壊したGreendale断層の破壊開始点は断層面の中央からやや西よりの深い点,破壊伝播速度は2.08km/s(震源近傍でのS波速度の60%)の組み合わせが最適解として選択された.推定された浅部におけるすべりの大きい領域はQuigley et al. (2012)による地表変位量分布とおおむね対応している.Greendale断層での時間変化するΔCFFの値は,断層Aが破壊してから6.0秒後にGreendale断層の破壊開始点で+0.6MPaとなった(μ'=0.8の場合).この結果から,Greendale断層の破壊は断層Aの破壊によって引き起こされたと考えることができる.
以上のように,浜通りの地震とDarfield地震において,ある断層の破壊によって平行でも共役でもない位置関係にある別の断層での破壊が引き起こされることが分かった.しかし,この2つの地震には異なる点がある.浜通りの地震の震源の周辺ではこの地震以前から正断層型の地震活動が活発であった.それに対しDarfield地震の震源周辺では地震活動は活発ではなく,周辺のGreendale断層に近い走向をもつ断層は逆断層型の破壊をし,Darfield地震のような横ずれ型ではない.このことと,いずれの場合でも断層間の動的なトリガリングが存在したことから,広域応力場に関係なく,ある断層の破壊によって別の断層の破壊が引き起こされる可能性があるといえる.