2006年度修士論文

3次元小スパンアレイ地震観測記録を用いた京都盆地東端部の地震動特性評価

白川 智香子


堆積盆地で地震動は増幅・伸長されることが知られており,S波主要動部及び後続動 部分では,S波の重複反射のみならず,表面波が盆地に入射した結果生じる盆地転換 表面波や,実体波が盆地に入射した結果生じる盆地生成表面波もまた寄与していると 考えられる。多くの大都市が堆積盆地上にある日本では,地震防災のために震源から 到達する地震波だけではなく,盆地によって生じる2次的な地震波を含めた地震動特 性を把握することが重要である。京都盆地東端部に位置する京都大学宇治キャンパス には,この地域の地震動特性の把握を目的として,鉛直アレイと地表水平アレイで構 成される3次元小スパンアレイ地震観測システムが設置されている。本研究では既往 の堆積盆地における地震動特性の解析を参考に,3次元小スパンアレイ地震観測記録 を使って,このサイトにおける地震動特性の分析を行った。

解析には2002年4月から2005年12月までの期間に得られたSN比の十分ある64個の地震 記録を使った。まず観測点間の距離に比べて十分に長い波長に対応する周波数帯の地 震波形記録を用いて地震計の設置方位の推定と補正を行った。次に鉛直アレイ地震観 測記録を用いて,Kawase and Sato(1992)の方法を参考に,地中と地表の観測記録 の相互相関関数を使った実体波と表面波の判別を行った。S波到着から後の主要動部 分を解析対象とした。地表と深さ100mの観測点での記録の比較からは,1.0-2.0Hzの 周波数帯でS波到着時にはS波の上昇波・下降波が卓越し,それ以降もS波の上昇波・ 下降波はいくらか見られるものの,S波到着時から2秒以上経過すると表面波が卓越し ていく様子が見られた。これより高周波数の帯域2.0-4.0Hzでも,地表と深さ30m深 度の波形の相互相関の解析によりS波到着後2秒程度から表面波が卓越することが分 かった。

次に地表水平小スパンアレイ地震観測記録から,センブランス解析により鉛直アレイ と同じ解析区間の地震波の到来方向と見かけ速度を見積もった。0.5-4.0Hzの周波数 帯においてはS波到着時では地震波は震央方向とほぼ一致した方位から到来している が,S波到着2秒後には主として東から,到着4秒後以降は主として北から地震波が到 来していることがわかった。これは鉛直アレイ地震観測記録の分析で,S波到着時か ら2秒以上経過すると表面波が卓越していることと調和的である。また,この表面波 が卓越する部分に対応する見かけ速度が,観測サイトの地下速度構造モデルから推定 される表面波の位相速度に近いことを確認した上で,到来方向と震動方向の関係から Rayleigh波とLove波に分類すると,後続波群ではRayleigh波,Love波が混在し,Love 波タイプに分類される波群がやや多いことがわかった。東方向から到来する表面波 は,観測サイトの東の盆地境界(黄檗断層),北方向から到来する表面波は,盆地と 桃山丘陵の境界でそれぞれ2次的に生成されたものと考えられる。