2016年度修士論文

強震波形を用いたレシーバ関数から推定される京都盆地の基盤深度

下村 智也


地震時には堆積盆地では地震動が増幅され、震動時間も長くなることから、地震災害の軽減には、堆積盆地における震動特性の解明とそれを説明できる堆積盆地の地下速度構造モデルが必要となる。京都盆地においては京都市や京都府の地震被害想定を目的とした予測地震動の推定のために、反射法探査、重力探査、微動アレイ探査結果を用いて、盆地基盤に至るまでの堆積層の速度構造モデルが作られた(京都府地震被害想定調査委員会, 2006)。このモデルに対して、実地震波形記録を用いたモデル検証はほとんど行われていないことから、本研究では, 近地地震のP波部分のRadial成分とVertical成分によるレシーバ関数(以下R/Vレシーバ関数)を用いた検証を行った。

京都盆地内外の強震・震度観測点42点の波形データを使用した。各観測点におけるイベント毎のR/Vレシーバ関数には、震央方位や震源深さに依らず、類似していたので、観測点毎にR/Vレシーバ関数をスタックしたものを、その観測点のR/Vレシーバ関数とし、その最大ピーク出現時刻を読み取った。R/Vレシーバ関数の最大ピーク出現時刻が、震源から観測点までの速度構造のうち、最も顕著な速度差をもつ盆地基盤上面と堆積層の境界におけるPS変換波と直達P波の走時差である観測PS-P走時差に対応すると考えた。既存の京都盆地速度構造モデルから観測点直下の1次元速度構造を抜き出し、モデルによるPS-P走時差と、観測PS-P走時差と比較すると、多くの観測点ではよい対応を示しているが、盆地端部に位置するいくつかの観測点では両者の比が大きく、モデルが適切でないことがわかった。

観測PS-P走時差を説明するために、既存の1次元速度構造モデルの修正を行った。モデルの修正は、観測PS-P走時差を説明するように、堆積層内の1次元速度構造を基盤深度の変化にしたがって深さ方向に伸縮させることにより、基盤深度を変化させた。修正された盆地基盤深度の妥当性は、盆地基盤まで達している深いボーリング情報や、地震波のS 波コーダ部分及び微動のH/Vスペクトル比の卓越周波数を用いた盆地基盤深度の推定を行った観測点での比較により確認した。

この研究で取り扱ったR/Vレシーバ関数の最大ピークが、盆地基盤でのPS変換波によるものかどうかを、離散化波数法による1次元成層構造モデルにダブルカップル点震源を与えた理論波形と、その理論R/Vレシーバ関数と比較することで確認を行った。各観測点に対する計算は、修正された各観測点直下の1次元速度構造モデルを用いた。波線計算によって、盆地基盤におけるPS変換点やPP透過点は盆地内と盆地外の大きな速度差によってほとんど観測点下にあることから、直達P波後しばらくは1次元速度構造モデルでも誤差が大きくならないと考えた。改良地下速度構造モデルによって得られた理論R/Vレシーバ関数は、観測R/Vレシーバ関数をよりよく再現していること、いくつかの観測点に現れていた最大ピーク直後の別のピークがPPPS変換波に対応するものであることを示すことができた。