強震動記録を用いた兵庫県南部地震における神戸地域の地下断層の位置推定と震源過程の波形インバージョン
関口 春子
地表に断層が現れず地下を破壊が進行したと考えられている神戸地域の強震動記録の地動軌跡を調べてその位置を推定し、震源に近い観測点で得られた強震動データを主に用いて、マルチタイムウィンドウ線形波形インバージョン(Hartzell & Heaton 1983)を行い、兵庫県南部地震の震源過程を推定した。
この地震では、神戸側では破壊域に近いところで、比較的多くの強震動データが得られた。これら震源近傍のデータは、破壊域の位置の情報を多く持ち震源過程インバージョンの分解能をあげる強力なデータである反面、インバージョンに際して仮定する断層モデルの位置の誤差の影響をまともに受ける.よって、ごく近地のデータをインバージョンに用いるときは、より確かな断層面の位置付けが要求される。淡路島では地表に断層が現れたことにより野島断層が震源断層であることが明白になったが、神戸側では直接、震源断層に結びつく地表破壊は見つかっておらず、地下震源断層の位置について様々な推論がなされてきた。地下震源断層の位置を正確に知ることは、強震動の状況や帯状の被害分布の形成を理解する上でも重要である。本研究では、兵庫県南部地震のような横ずれの断層運動が起こった場合、断層を挟んだ両側で地動軌跡の回転が逆になるという理論的予測に基づき、震源断層に近いと思われる観測点での地動軌跡と理論地震動の地動軌跡の比較から、神戸地域における地震断層面の位置を推定した。
まず、余震分布を基に本震破壊の断層モデルとして破壊開始点を継ぎ目とする神戸側と淡路島側の2つの面を仮定し、予備的なインバージョンを行った。神戸側については、破壊開始点付近と神戸市東部の直下に相対的に大きなモーメント解放量を持つ領域があること、この2つのイベントが、神戸大学等神戸市東部の覿測点のデータにみられる2つの顕著なパルスの主原因であることがわかった。
予備解析で得られた破壊過程を単純化した断層モデルを仮定し、断層面のまわりの異なる位置における理論地震動を求めた。観測とシミュレーションの地動軌跡の回転方向の比較から、神戸側を2つの面に分ける必要があること、地中にある破壊面の延長が地表を切る線は六甲断層系に沿うことがわかった。
新たに置きなおした3つの平面からなる断層モデルで、19観測点のデータを用いてインバージョンを行った。主破壊域の長さは40〜45km。破壊開始点付近、淡路島北部の10kmより浅いところ、神戸市東部の10kmより深いところの3カ所に大きなすべり破壊域があったことがわかった。)破壊の時刻歴をみると、淡路島のイベントの大きなすべりは、破壊開始点付近の大きなすべりに比べかなり長い時間をかけて生じたことがわかった。