1996年度修士論文

1995年兵庫県南部地震系列の震源バラメータ

中川 博


1995年兵庫県南部地震(MJMA7.2)の本震の震源過程については、測地データ、遠地地震データ、近地地震データを用いた震源インバージョンにより、神戸側の断層面は六甲断層面に沿っていること、破壊開始点付近・淡路島北部の深さ10km以浅・神戸市東部の深さ10km付近の3カ所に大きなすべり破壊域があったことが明らかになってきた。本震後多くの余震が発生し、その分布は淡路島北部から六甲断層系に沿って北東−南西方向に伸びている.P波初動の押し引き分布より求めた余震の震源メカニズム解の研究から、P軸の向きはほぼ東西方向であるがメカニズムは様々な型の解となっており、本震の震源域近傍は、本震後の応力変化や震源断層付近の枝分かれ等の微細な横造による局地的に複雑な応力場となっていると考えられる。また、本震断層周辺の本震後の静的な応力変化を計算した他の研究結果では、本震断層と同様な北東−南西走向の右横ずれ断層の場合に対し、応力変化の増加域が本震断層端の延長上に伸びる分布となっている。

このように明らかとなっている本震の破壊過程や本震後の応力変化の増加域と余震の震源特性(震源メカニズム解,地震モーメント,応力降下量)との空間的関係を調べることにより、より定量的な本震震源域の応力場や空間的な特徴を推定することが期待される。本研究では、余震の震源メカニズム解及び応力降下量を波形インバージョンにより推定し、その空間分布に見られる特徴や地震モーメント・震源の深さ等の他の震源バラメータとの相関の有無について調べ、それから推定される震源域の特徴について考察した。解析には主に本震直後に震源域に設置展開された共同強震観測点の岩盤記録を用いた。その結果、1995/1/17 06:42〜1996/5/19 14:06の期間に発生したMJMA2.6〜5.4の計47個の余震の震源メカニズム解及び応力降下量について求めることができた。本震震源域の主な特徴として、以下のことが明らかとなった。

(1)東灘区北部に逆断層型の震源メカニズム解が卓越する領域があり、本震の破壊域はこの領域の近傍を北東端とし、宝塚市付近のクラスターの余震は横ずれ型の震源メカニズム壊が卓越し、また相対的にやや高い応力降下量を示し、この領域には本震時に破壊が到達していなかった。

(2)神戸市中央区付近の領域では深さ約10km付近でその一方の節面が本震断層面に平行な解が卓越し、それらの余震は本震の神戸市東部の大きなすべり破壊域の側面で発生した。

(1)及び(2)の余震の震源メカニズム解と本震のすべり破壊域との関係は、理論的に示される食い違い断層によって引き起こされた局地的な応力の方向と調和的である。