2018年北海道胆振東部地震の強震記録を用いた広帯域震源過程と非線形サイト応答
永井 夏織
2018年9月6日 3時8分(JST)に, MJMA6.7の北海道胆振東部地震が発生した.気象庁による震源の深さは約37kmで,通常の内陸地殻震より深いところで発生している.この地震の震源域でを含む地域では,日高山脈の西側を縁取る主衝上断層での東北日本弧と千島前弧の衝突によって,石狩低地東縁断層帯-日高主衝上断層間の地殻は通常より厚くなっている.今回の地震はその領域で発生した.
本研究では強震記録を用い,経験的グリーン関数法によりこの地震の広帯域震源過程 (0.3–10Hz)を推定した.この地震に関しては先行研究の震源インバージョ結果が示されいるが,理論的にグリーン関数を計算するため比較的低周波数(~0.5 Hz以下)が解析対象となっている.その周波数帯域では,この地震の観測波形に広帯域に見られるいくつかの孤立した波群が不明瞭になる.経験的グリーン関数法は,大地震の近傍で起きた小地震の記録を経験的グリーン関数として波形を合成する方法で,高周波数も含めた広帯域を解析対象とすることができる.経験的グリーン関数法を用いて推定される,断層面上で強震動を生成した領域 は強震動生成領域(SMGA)と呼ばれる.
まず観測波形に見られる1つ目の波群S1の立ち上がりを読み取ることによって,S1に対応すると仮定したSMGA1の破壊開始点を推定した.それを用いて,震源から約10km浅いところに7.2km×7.2kmのSMGA1が推定された.震源モデルの推定には,基盤強震観測網KiK-net地中の5観測点を用いた.観測波形に見られる,SMGA1のみによる合成では再現できない波群をS2として,同様に破壊開始点と震源モデルを推定したころ,震源より約13km浅いところに5.4km×5.4kmのSMGA2が推定された.SMGA1において破壊は深部から浅部の方向に進展し,SMGA2においては南から北に進展した.
推定した震源モデルを震源インバージョン結果と比較したところ, SMGA1とSMGA2は大よそすべりが大きい領域と重なり,破壊のタイミングも一致した.SMGAとすべりが大きい領域が重なる領域では,震源インバージョンで解析対象としている周波数帯域も含む広帯域の強震動が生成されたと考えられる.以上のことかか,観測波形に見られた複数の孤立した波群は,すべりが大きい領域の内部にある,より短波長の不均質構造によって生成されたと考える.
この地震で深刻な被害が生じた地点では,地盤の非線形応答が指摘されている.地盤の非線形応答の特徴については,強震時に弱震時と比べて卓越周波数が低下することや,高周波数での増幅率の低下が挙げられている.推定モデルを使って線形な重ね合わせ手法である経験的グリーン関数法により広範囲の観測点における波形を合成した.遠方の観測点や,地盤が硬質な観測点では観測波形がよく再現されたことからモデルの妥当性を確認した.震源近傍の地盤が軟弱な観測点では,合成波形が観測波形を過大評価したことや,振幅スペクトルを比較して観測波形のほうが合成波形より卓越周波数が低いことから地盤の非線形応答の可能性を指摘した.