2000年度修士論文

経験的グリーン関数を用いたエンベロープインバージョンにおける小地震選択の影響

松元 康広


従来の波形インバージョンでは扱うことが困難であった断層面上での1Hz以上の高周波地震波の生成過程の推定が、経験的グリーン関数を用いたエンベロープインバージョン(Kakehi and Irikura (1996))によって行われるようになってきた。ところで、過去の同様の研究では経験的グリーン関数として適切な小地震が少ないということもあり、得られるモデルの小地震依存性の議論がなされていない。特に高周波地震波は地下の微細な構造の影響を強く受け、高周波地震波を対象とする経験的グリーン関数を用いたエンベロープインバージョンには小地震依存性が出てくることが予想される。

そこで、本研究では経験的グリーン関数として適切な小地震が複数観測されている大地震の高周波地震波の生成過程の推定を、同一観測点条件下で異なる小地震記録を用いて独立にエンベロープインバージョンを行い、それぞれから得られるモデルを比較した。具体的には、Kakehi and Irikura(1996)に従い、1993年能登半島沖地震(1993年2月7日22時27分(M=6.6)、余震は震源領域とその外部のやや離れたもの。観測点と震源はやや遠い)と2000年鳥取県西部地震(2000年10月6日13時30分(M=7.3)、余震は震源域のやや北の近傍のもの。震源近傍観測点を使用)の高周波地震波の生成過程を異なる小地震記録を用いて推定した。異なった余震を使用した場合に、詳細な違いはあるもののそれぞれの地震の高周波生成域分布はよく似た傾向が得られた。これは、高周波地震波のグリーン関数が波線及びその周囲の構造によって決められることによると考えられる。

能登半島沖地震に関しては高周波地震波は仮定した断層面の南側浅部、中央深部から北側浅部にかけての2つの領域で強く励起されている。また、鳥取県西部地震に関しては、高周波地震波は断層面の南側と破壊開始点直上の地表付近の2つの領域で強く励起されている。これらの高周波生成域と、運動学的インバージョン結果などによって得られた、すべり分布などとの比較を行い、広帯域の断層の破壊メカニズムの議論が可能であることを指摘した。