1998年度修士論文

兵庫県南部地震の余震記録を用いた神戸市東部のサイト増幅特性の評価

丸尾 儀幸


1995年1月17日に発生した兵庫県南部地震時に生じた甚大な地震被害域(震度VIIの帯)の生成原因をサイト増幅特性の観点から議論した。まず直後から行われた臨時余震観測のうち,神戸市東部に設置された12点と,恒常的に設置されている5観測点の計17観測点の10個のイベント記録を用いて,岩盤上観測点KMCを基準点としたS波振幅スペクトル比を相対的なサイト増幅特性として評価した.“震度VIIの帯”内めS波水平動振幅スペクトル比によるサイト増幅特性は0.5〜4.OHzにわたる広い周波数帯での2〜8倍の増幅で特徴付けられた.しかしながら“震度VIIの帯”内の観測点でも比較的増幅の小さい観測点もあった.“震度VIIの帯”よりも山側の観測点では3〜5Hzの高周波数側での増幅が見られ,海岸側の埋立地では1Hz付近の低周波数での2倍の増幅という特徴が見られた.次にコーダ波振幅比との比較を行った.コーダ波水平動振幅比は岩盤上の観測点ではS波水平動振幅スペクトル比と一致するものの,地盤上の観測点ではS波水平動振幅スペクトル比と比較して過大評価され,特に埋立地ではこの傾向が大きくなることがわかった.S波上下動振幅スペクトル比はS波水平動振幅スペクトル比とは異なる形状を示し,S波部分でも,水平動成分と上下動成分は別種の波であることが推察された.コーダ波上下動振幅比もS波上下動振幅スペクトル比と比較して過大評価されることがわかった.

震度VIIの帯におけるサイト増幅特性の違いを考察するため,堆積層上の16観測点のうち6地点で得られている,ボーリング調査やPS検層の結果を利用して,S波速度約400m/sの層を基準とした増幅率を1次元波動理論を用いて計算した.解析によって得られた周波数範囲において表層構造の違いによって地盤増幅特性に違いが見られ,“震度VIIの帯”内でのサイト増幅特性の違いの理由の1つに,表層構造の違いが挙げられることがわかった.また,深い堆積層構造を考慮した地震基盤(S波速度約3.2km/s)からの増幅率を1次元波動理論に基づいて評価したところ,基盤からの増幅率の0.5Hzから2.OHzまでの平均値は,盆地境界から鉛直距離1.4km付近で最大となり,“震度VIIの帯”の場所とほぼ一致した.“震度VIIの帯”内外のサイト特性の違いに,堆積層全体の厚さの違いによる増幅度の違いの影響も含まれている可能性を示した.

一方,基準点として選んだKMCでのサイト増幅特性を見積もるために,地震後KMCに設置されたボアホール地震計(地下30m,地下1m)で得られた記録のS波部分水平動振幅スペクトル比を用いて,地下30mまでの表層構造(S波速度及びQ値)を遺伝的アルゴリズムを利用して推定した.推定された地下構造モデルの速度はPS検層のそれと類似しており,解が妥当であると考えられ,求められた Q 値は10以下の非常に小さな値となった.岩盤上記録を基準として,絶対的なサイト増幅特性を議論する場合は,特に高周波数域において十分注意しなければならないことがわかった.