大阪堆積盆地における長周期地震動特性
岩城 麻子
海溝型巨大地震による大阪堆積盆地における長周期地震動(周期数秒〜20秒)を高精度に評価するための,3次元地殻・地盤速度構造モデルの適用性を検討した.はじめに,想定東南海地震の震源域付近で起きた2004年9月紀伊半島沖地震の最大余震(MJMA6.5)について3次元差分法による長周期地震動シミュレーションを行い,大阪堆積盆地内外で収集した54強震観測点の地震記録と計算結果を比較してモデルの妥当性を検証した.盆地外側の岩盤観測点では波形の特徴がよく再現され,地殻速度構造モデルがこのシミュレーションにおいて適切であったことが示された.盆地内では高密度の強震観測記録を利用して再現性の良い地点とそうでない地点の空間的な分布を調べた.盆地内の多くの観測点で波形の振幅や継続時間の特徴が再現され,擬似速度応答スペクトルの卓越周期も20%以内の誤差範囲で再現された.一方で,再現性の良くない観測点は大阪盆地の北東部に集中し,基盤形状が急激に変化する地下構造をモデルが適切に表現しきれていない可能性が示された.
続いて,自然地震記録による長周期地震動のサイト特性に基づく盆地構造モデルの修正方法を検討した.11個の大規模地震の記録についてフーリエ振幅スペクトルの水平成分/鉛直成分比(HV)を求めたところ,S波部分では地震ごとのばらつきがあるが,S波後続波部分では周期3-20秒の範囲において地震の深さや到来方向に依らずサイト固有であることが分かった.到来方向と深さの異なる3個の地震に対して3次元地盤速度構造モデルを用いて長周期地震動シミュレーションを行い,S波後続波部分のHVが地震にあまり依らないことをモデルにおいても確認した.次に長周期のHVがサイト固有であることを利用して,HVと盆地構造モデルとの関係を議論した.シミュレーションによるHV(3DHV)とサイト直下の地下構造を1次元水平成層構造として求められる理論レイリー波基本モードのHV(1DHV)の空間的分布を調べたところ,3DHVと1DHVのピーク周期は必ずしも対応しておらず,3DHVがある程度の広がりを持った領域の2,3次元構造の影響を受けていることが分かった.既往の研究においては1DHVとHVの比較によるモデル修正方法が提案されているが,地下構造の急変地域を含む盆地構造モデルの改善を進めていくためには3次元モデリングが必要であることが示された.
最後に,検証された速度構造モデルを使って想定南海地震の長周期地震動シミュレーションを行った.使用した震源モデルの総面積は34000 km2,地震モーメントは7.4 x 1021 Nm (MW8.5)である.大阪湾岸地域及び中心部における速度最大値は80-100 cm/s に達し,周期5-10秒での擬似速度応答スペクトルは2003年十勝沖地震で長周期地震動による被害を受けた苫小牧での観測記録の3倍から5倍にも及んだ.