2015年度修士論文

阪神地域の地震記録においてS波到達から繰り返し見られる特徴的な後続波群

田中 宏樹


関西地震観測研究協議会・尼崎観測点では、直達S波到達の後に約4秒間隔の特徴的な後続波群が見られるイベント記録があることが報告されている(赤澤・香川, 1996)。赤澤(2003)は、Transverse成分に注目した目視による波群の解析を行い、特徴的な波群が顕著に見られる震央方位を特定した。そして、この特徴的な波群が地表と構造境界(堆積層と地震基盤境界)でのS波の多重反射によるものとして、二次元地下構造モデルを仮定して、均一な放射特性を持つ線震源からリッカー波を射出した二次元SH波動場の数値計算を行い、1回反射波の走時と振幅が再現に成功した。

先行研究を踏まえて、本研究ではまず、特徴的な波群をより客観的に決定する方法を提案した。この手法は、適切な時間窓内の水平面内の粒子軌跡を楕円で近似し、時間窓をずらしながら近似楕円の長半径の時刻歴を作成し、長半径のピークが現れる時刻を波群走時として決定する。その時刻の、近似楕円の長軸方位を波群の振動方向として与え、長半径値、短半径値から波群の扁平率を求める。

この手法に従い、1995~2015年の尼崎観測点の記録に対して、水平2成分でのデータ解析を行った結果、特徴的な波群が見られるイベントは尼崎観測点の南西〜北西〜北東側に集中しており、赤澤(2003)と同様の傾向を持つ結果が得られた。また、各波群の走時差は、北西側のイベントのものが最も小さく、どの方位のイベントも、波群間隔は時刻が後になるほど小さい傾向が見られた。振動方向に注目すると、波群ごとに振動方向の変化が見られ、その変化には震央方位依存性を示す3つの系統性が見られた。このように、水平2成分での解析により、赤澤(2003)では得られていない、振動方向の系統的な変化が確認された。

この特徴的な波群が尼崎観測点以外でも見られていないか調べるために、尼崎観測点周辺にある、1995年兵庫県南部地震の臨時余震観測で設置された兵庫県芦屋市の芦屋観測点と、神戸市東灘区の福池・深江観測点の記録に対しても同様の解析を行った。これらの観測点では、尼崎観測点で見られた約4秒間隔の特徴的な波群と異なり、時間間隔約2秒で繰り返し現れる波群が観測されていることが分かった。

これらの特徴的な波群及びその震動特性の再現と伝播の特徴を探るために、いくつかのイベント記録に対して、ダブルカップル点震源モデルと、三次元大阪堆積盆地地下構造モデル(関口・他, 2013)を用いた、差分法による三次元地震波動場シミュレーションを行った。その結果、尼崎観測点では、多くのイベントで直達S波に続く特徴的な波群が数波再現され、振動方向が変化している様子まで確認ができた。震央―観測点間測線での計算波形のペーストアップから、尼崎観測点は特徴的な波群が見えやすい位置にあることが分かった。震央―観測点間の深さ断面での波群伝播の様子から、直達S波が地表と構造境界で多重反射することで生じていることが立証された。

一方、芦屋・福池・深江観測点に対する計算結果には、観測と同様に、尼崎観測点に見られるような約4秒間隔の特徴的な波群ははっきりとは見られなかった。震央―観測点間測線での計算波形のペーストアップから、これらの観測点は、堆積盆地の縁に近いために、堆積盆地の縁で発生する回折波の到達と重なるため、約4秒間隔の特徴的な波群が単独で見えにくい位置であることが示された。観測波形に見られた約2秒間隔の波群は数値計算結果でも現れており、深さ断面での波群伝播の様子から、約2秒間隔の波群は、約4秒間隔の異なる2つの波群が約2秒おきに交互に到達していることを突き止めた。このうち先行する波群は尼崎観測点で見られるものと同じ直達S波及びその多重反射波で、もう一方は、先行する波群に対してそれぞれ位相が反転していることから、直達S波が堆積盆地境界の縁に入射して二次的に生じた回折波起源と考えられる。地表面での波動伝播から、後者の波群は、横方向から回り込んだ波ではないことを確認できている一方、イベント位置や観測点によっても現れ方が異なることから、震央―観測点間の構造境界の形状に支配されている波群と言える。