2020年度修士論文

強震波形記録の自己相関関数解析による大阪平野,京都盆地での基盤面深度の推定

福留 脩太


大阪平野、京都盆地は主に大阪層群と呼ばれる堆積層で形成された堆積盆地である。将来的に発生する地震の地震動を予測するためには、堆積盆地の三次元的な地震波速度構造を高度にモデル化することが必要である。大阪平野では屈折法探査や反射法探査などの物理探査を端緒として、堆積盆地内の三次元速度構造のモデル化が行われてきた。最新のSekiguchi et al. (2016)では微動のH/Vスペクトル比や微動アレイ観測結果と既存のモデルと比較してモデルの改訂が行われている。京都盆地においても京都市の調査 (京都市, 1999, 2000, 2001, 2002, 2003)で反射法探査、ボーリング探査、微動アレイ探査などから、三次元の速度構造モデルが構築されている。

これらの地下速度構造モデルがどれほど正確であるかをモデル化に用いられていない手法やデータを用いて検証し、新たな情報を得ることが、地下構造モデルの検証や高度化につながる。基盤面からの反射波を検出する手法として地震動記録の自己相関関数を用いた解析が提案されており、Chimoto and Yamanaka (2019, 2020)では関東平野内の強震観測点の観測波形の自己相関関数を用いて堆積盆地基盤面と地表間の多重反射波の検出が行われた。本研究では大阪・京都堆積盆地内の強震観測点の観測波形のS波部分の自己相関関数を用いて堆積盆地基盤面からのS波の多重反射波の検出を試みるとともに、既存の堆積盆地構造モデルとの比較を行い、モデルの妥当性検証や改良につなげることを目的として解析を行った。

まず、地下構造が既知の観測点において解析を行い、スペクトルホワイトニングのウィンドウ幅とバンドパスフィルタを適切に設定することで基盤面からの明瞭な反射波応答を得ることができた。次に、震源の深さ、震央距離や放射特性が自己相関関数に及ぼす影響を調べるために理論波形による数値実験を行った。まず仮想的に配置した震源による理論波形を用いた結果、震源の深さが浅く、震央距離が大きい場合、反射波応答が明瞭でないことがわかった。次に前述の観測記録の解析で用いた観測点の地下構造モデルとイベントの情報を用いた理論波形による解析を行った結果からは、自己相関関数における反射波応答の明瞭性には地震波の堆積盆地基盤面への入射角依存性があることを明らかにした。これらの結果から、イベント波形記録の選定の際には震央距離(L)と震源深さ(D)の比(L/D)を判断基準として用いることとした。

前述のデータ処理手法とデータ選定基準をもとに、大阪・京都堆積盆地内の計79の強震観測点を対象に自己相関関数解析を行い、得られた反射波応答の時間と既存モデルを用いて計算した反射波の2way timeとを比較した。観測データ数が少ない観測点や、京都盆地北部の基盤面が特に浅い観測点では、明瞭な反射波応答を読み取ることができなかったが、多くの観測点では反射波を検出でき、その走時は多くの地点で既存モデルとよく対応した。しかし、大阪堆積盆地南東部などのいくつかの地点で、観測と既存モデルの走時に顕著な差が見られ、既存モデルに改訂の余地があることが分かった。堆積層内の平均S波速度を保ったまま、理論走時と観測走時の比を用いて盆地の基盤面深度の修正を試みたところ、堆積盆地縁辺部において基盤面深度が大きく修正される地点があった。このように、堆積盆地内の多数の強震観測点での地震波形記録を用いた自己相関解析は速度構造モデルの検証や改良において有用性が高いことが示された。