2001年地球惑星科学関連学会合同大会予稿集, Sy-001, 2001
広帯域強震動のためのすべり速度時間関数
--1995年兵庫県南部地震への適用--
三宅弘恵・岩田知孝(京大防災研)・関口春子(産業技術総合研究所)・入倉孝次郎(京大防災研)
Slip velocity time function for simulating broadband ground motions
-- Application to the 1995 Hyogo-ken Nanbu earthquake --
Hiroe MIYAKE, Tomotaka IWATA (DPRI, Kyoto Univ.),
Haruko SEKIGUCHI (Geological Survey of Japan), and Kojiro IRIKURA (DPRI, Kyoto Univ.)
1, はじめに
理論的グリーン関数を用いた波形インバージョンによって震源断層面上の詳細なすべりの時空間分布が推定されるようになり,震源近傍強震動の推定には,アスペリティなどの不均質なすべり分布の情報を取り入れた震源モデルの構築が重要であることが指摘されている.波形インバージョンでは,理論的グリーン関数を与えるためにモデル化された地下構造の精度によってその分解能の限界が決まっており,現段階では1Hz以上の高周波数のグリーン関数を精度良く計算することが難しいという問題点はあるが,それ以下の低周波数における震源像を得る有効な手法であると言える.高周波数も含んだグリーン関数としては,小地震の実記録を経験的なグリーン関数として用いる方法などが提案されている.この場合,解析が余震記録が存在する観測点に限られる,小地震自体の震源特性を完全には除去できないといった条件がつくが,震源スペクトルスケーリングに基づく補正を行うことにより,幅広い周波数帯域での波形評価が可能である.一方,理論的グリーン関数を用いた松島・川瀬(2000)や経験的グリーン関数を用いたKamae and Irikura (1998)らは,複数の矩形アスペリティからなる震源モデルをフォワードモデリングで推定しており,1Hz付近のパルスやより高周波数域の震源近傍域の強震動を良好に再現している.これは両者とも時間軸上でKostrov型をイメージした立ち上がり部が急峻なすべり速度時間関数を与える,という強い仮定をしていることによると考えられる.
そこで本研究ではアスペリティの物理を考えることを目的とし,低周波数を用いた波形インバージョンで得られた時空間的に不均質なすべり分布を生かしながら,すべり速度時間関数に改良を加えることによって広い周波数領域に適用可能な震源のモデル化を試みる.そのために波形インバージョンから推定されたすべり速度時間関数に高周波数発生項を加えたものと経験的グリーン関数とをコンボリューションした波形シミュレーションを行い,1Hz付近やそれ以上の周波数帯の強震動を再現するために必要とされる空間的・時間的なファクターを探る.
2, 解析手法
震源には各小断層を点震源とした震源時間関数ではなく,小断層内の破壊伝播の効果を入れたコンボリューション法によってすべり速度時間関数を推定したSekiguchi et al. (2000)の1995年兵庫県南部地震の波形インバージョンの結果を用いる.彼女らは0.1〜1Hzの周波数帯域でマルチタイムウィンドウを用いた波形インバージョンを行っており,継続時間0.6sのsmoothed ramp functionの微分形8個を0.4sの時間差を持たせて足し合わせ,各小断層面上のすべり速度時間関数を表現している.ここではすべり速度時間関数に 1Hzのローパスフィルターを施したものを低周波数項とし,それにすべり速度の最大値に比例する振幅をもつ高周波数項(手始めとしてインパルスを使用)を加えたものを各小断層における震源の入力項とした.高周波数項を加える時刻は(1)すべり速度が最大となる時刻,(2)破壊開始時刻の2通りを考える.一方,経験的グリーン関数にはMj4.5クラスの震源断層面近傍で発生した余震記録を各断層セグメントにつき1つづつ選択し,両者をSekiguchi et al. (2000)で得られた破壊伝播速度ベクトルに従って時空間的にコンボリューションした.波形シミュレーションでは,震源近傍に位置する神戸大学(KBU)や神戸本山(MOT)を含む震源から半径約50kmの観測点を対象とし,0.1Hz〜10Hzの周波数帯における加速度・速度・変位の水平成分を計算した.本震の震源情報,枝分かれを含む5枚の断層面の配置,小断層のサイズはSekiguchi et al. (2000)に準拠した.なお,余震記録のすべり継続時間は波形インバージョンで得られたすべり継続時間よりも有意に短いと考えた.
3, 解析結果
神戸大学(KBU)における波形シミュレーションを行ったところ,適切な余震を選択すれば1Hz以下の低周波数の波形は比較的良好に再現されたが,合成波形の継続時間が観測波形の3倍ほど長くなることが分かった.これは波形インバージョンで求められたすべり継続時間が長く求まってしまっている(スムージングによってしみ出している)可能性が考えられる.また,波形インバージョンから推定されたすべり速度時間関数を広帯域強震動シミュレーションに適用するには,妥当なすべり継続時間,高周波を生成するためのインパルス関数の振幅,発生時間,発生場所といったパラメータの拘束をかける必要があることが示された.経験的グリーン関数の問題としては,すべり角(rake)が余震記録と同じ角度に固定されていること,各セグメント内では同じグリーン関数が用いられていること,が挙げられる.
4, 謝辞
解析にはCEORKA, 2ESGのCD-ROMに収録されている強震記録,気象庁の震源情報を使用しました.記して感謝致します.
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