2000年地球惑星科学関連学会合同大会予稿集, Sb-002, 2000

強震動生成領域と運動学的不均質震源モデル

三宅弘恵・岩田知孝・入倉孝次郎(京大防災研)

Strong motion generation area and kinematic heterogeneous source model

Hiroe MIYAKE, Tomotaka IWATA and Kojiro IRIKURA (DPRI, Kyoto Univ.)


1, はじめに

 近年,震源近傍域の強震記録を用いた低周波数域(<1Hz)における波形インバージョンが数多く行われ,内陸地殻地震の震源過程は概して空間的に不均質なすべり分布をもつことが明らかになってきている.この様に個々の地震について詳細な震源過程が推定されている一方で,これまでに蓄積された波形インバージョンの結果を系統的に解析して震源断層の性質を明らかにすることを目的とした研究も進められている.例えばSomerville et al.(1999,SRL)は,低周波数を説明する空間的に不均質なすべり分布を特性化した震源モデルとして,すべりの大きい均質矩形領域(アスペリティ)とその周辺を取り巻くすべりの小さい均質矩形領域(バックグラウンドすべり域)からなる不均質震源モデルを想定し,断層全面積だけでなくアスペリティの面積と地震モーメントに関するスケーリングを行っている.これらの解析は低周波数を用いた波形インバージョンの結果を基に行われているが,強震動を扱っていく上では1Hz以上の高周波数を説明することが出来る震源モデルを構築していくことが必要不可欠となる.そこで我々は経験的グリーン関数法を用いた強震動シミュレーションを行い,高周波数を含む幅広い周波数範囲において震源近傍域の強震動を再現することが出来る震源モデルを推定する.そして得られた震源モデルと低周波数を用いた波形インバージョンから得られる運動学的不均質震源モデルとの関係を明らかにするために地震モーメントに対するスケーリングを行い,本解析で求められる強震動生成領域の解釈を試みると共に,この領域を規定する震源パラメータの有効性について議論する. 
 

2, 経験的グリーン関数法を用いた強震動シミュレーション
 本震近傍で発生した余震記録を用いる経験的グリーン関数法は,理論的なグリーン関数を用いる場合に比べて高周波を含む広い周波数の解析が可能である.ここでは1995年以降に日本で起きた8個の内陸地殻地震(Mjma4.9〜7.2)についてオメガ2乗スケーリング則に基づいた経験的グリーン関数法[Irikura(1986,7thJEES)]を用いた強震動シミュレーションを行い,0.2〜10Hzの周波数範囲における震源近傍域の強震動を説明することが出来る震源モデルを推定した.モデルパラメータは矩形の面積・配置・ライズタイムで,破壊はS波速度の0.9倍の速度で震源から一様かつ円状に広がると仮定している.本解析では複数の観測点の合成波形と観測波形の加速度包絡波形の残差と変位波形の残差の和が最小になる様に,遺伝的アルゴリズムを用いてこれらの震源パラメータを推定した.
 

3, 運動学的震源パラメータに関するスケーリング
 強震動シミュレーションから推定された震源パラメータを評価するために,地震モーメントに対するスケーリングを行った.本震の地震モーメントは広帯域地震波形を用いたモーメントテンソルインバージョンから推定された値を採用し,余震の地震モーメントは本震に対する相似的な値として決めたものを用いている.ただし1995年兵庫県南部地震の強震動生成領域とライズタイムはKamae and Irikura(1998,BSSA)によって推定された値を使用した.強震動生成領域と地震モーメントとのスケーリングから,本解析で推定された強震動生成領域は地震モーメントと自己相似的な関係にあり,既往の低周波数を用いた波形インバージョンから得られる空間的に不均質なすべり分布上のアスペリティの面積[Somerville et al.(1999) のcombined asperity area]にほぼ相当するという結果を得た.またいくつかの地震に関しては,0.1〜0.5Hzの周波数範囲で波形インバージョンを行いSomervilleet al.(1999)と同じ基準で推定されたアスペリティ[Miyakoshi et al.(2000,12thWCEE)]の位置と本解析で求められた強震動生成領域の位置がほぼ一致することが分かった.一方ライズタイムについては地震モーメントが9.50*10**13〜1.38*10**18Nmの範囲において,比例する関係が見られた.

 

4, 結論
 中規模の内陸地殻地震に関して経験的グリーン関数法を用いた震源近傍域の強震動シミュレーションにより広い周波数範囲において強震動を生成する領域を推定した.求められた強震動生成領域は地震モーメントと相似性が見られ,低周波数を用いた波形インバージョンによって得られた不均質なすべり分布上のアスペリティの面積にほぼ対応することが分かった.これは幅広い周波数領域の震源のモデリングには,主に低周波数を生成する断層全体の面積だけでなく,強震動を説明するために不可欠な高周波部分を受け持つアスペリティの面積も考えた不均質震源モデルの特性化およびその相似則が重要であることを意味している.今後,本解析で解析した地震の規模より大きい地震の場合に同様の傾向が見られるかどうかについて検討を重ねていく必要がある.
 

5, 謝辞
 解析にはK-NET,CEORKAの強震記録,気象庁,九州大学理学部島原地震火山観測所の震源情報,FREESIAの震源メカニズム解を使用しました.記して感謝致します.


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