2, 破壊伝播方向の推定
本震の震源特性を議論するために,本震近傍で発生し,震源メカニズムが類似している余震を用いて振幅スペクトル比をとり,伝播経路特性・サイト特性を取り除いた.ここで得られた震源振幅スペクトル比は,余震のコーナー周波数(約2Hz)以下の周波数範囲で本震の震源スペクトルとみなして議論することが出来る.各地震の震源過程は1Hz以下の低周波記録を用いた波形インバージョンによって求められている.これらに基づいて,地震動スペクトル比に見られるdirectivity効果(前報告,1998秋季学会B55)を利用すると,スペクトル比は以下の3種類の破壊様式に分類できる.A:
破壊形状が横長(L>=W)でユニラテラルな破壊の場合,スペクトル比にはdirectivity効果が顕著に現れる.観測点位置が破壊伝播方向の前方,横方向,後方になるにつれて,本震のコーナー周波数は低くなり,スペクトル比の傾きが緩くなる(1996.8.11
宮城県北部地震(M5.7),1997.3.26 鹿児島県北西部地震(M6.5)など).B: 破壊形状が横長でバイラテラルな破壊の場合,断層の両端でforward
directivity効果が顕著に見られる (1995.1.17 兵庫県南部地震(M7.2),1996.8.11
秋田県内陸南部地震(M5.9)など).C: 破壊形状が縦長(L<W)の場合,震源近傍はforward
directivityを示す (1997.6.25 山口県北部地震(M6.1)など).なお解析には震央距離約50km以内に位置するK-NETとCEORKAの記録を用いた.
3, 破壊領域の推定
破壊領域は経験的グリーン関数法[Irikura (1986)]を用いて,合成波形と観測波形の比較により推定した.パラメータN,Cはdirectivityの影響を考慮して見積もられたスペクトル比に,Brune
(1970)のオメガ2乗震源モデルをfittingさせて求めた.本解析では震源近傍の複数の観測点において加速度・速度・変位波形をそれぞれ合成し,合成波形と観測波形の残差が最小になるように遺伝的アルゴリズム(GA)を用いて最適解を求めている.ここでは破壊領域と領域内の破壊開始配置(震源の位置は固定),ライズタイムを変数とし,S波速度は約3km/s,破壊伝播速度はS波速度の0.9倍とした.既存のクラック半径とコーナー周波数の関係式としてBrune
(1970, 1971)のR=0.37Vs/fc,Sato and Hirasawa (1973)のR=0.32Vs/fcやMadariaga
(1976)のR=0.21Vs/fcなどが挙げられるが,これらを参考にしてR=0.10Vs/fc ~
R=0.50Vs/fc の範囲を探索した.ここでRは円形クラックの半径,VsはS波速度,fcはコーナー周波数を示す.求められた破壊領域を1つのクラックと考えた場合の等価半径と,directivity効果を考慮して見積もられたコーナー周波数の関係は,Brune(1970,
1971)とSato and Hirasawa (1973) の中間の値をとる傾向が見られた.
4, 結論
震源振幅スペクトルの形状の方位・空間変化から破壊伝播方向を推定することができる.またdirectivity効果を考慮して見積もられたコーナー周波数から,観測結果を説明する関係式を用いておおよその破壊領域が推定できると考えられる.この方法の利点として,グリーン関数を計算することなく簡便に震源モデルが得られることや広い周波数域(0.2~20Hz)での解析が可能なことが挙げられる.また震源スペクトルのスケーリングのためには,複数の観測点の記録を用いて震源からの方位・空間変化を考慮する必要がある.
5, 謝辞
本研究にはK-NET及びCEORKAの記録を使用しました.記して感謝致します.
6, 参考文献
Boore (1983) BSSA, 68, 283-300. Brune (1970) JGR, 75, 4997-5009.
Brune (1971) JGR, 76, 5002. Irikura (1986) 7thJEES, 151-156. Madariaga
(1976) BSSA, 66, 639-666. Sato and Hirasawa (1973) JPE, 21, 415-431.