震源域近傍強震動記録からみた2005年福岡県西方沖の地震の震源過程

2005年3月21日作成 (Ver.1)
2005年3月22日更新 (Ver.2)
2005年4月11日更新 (Ver.3)
2005年5月16日更新 (Ver.4)
2005年6月 1日更新 (Ver.5)
English Version


2005年3月20日10時53分に福岡県西方沖(玄界灘)で発生したMj7.0の地震の震源過程を観測された強震波形記録を用いて推定しました.

解析に使用したデータ長を10秒間から16秒間に変更しました. その結果,以前のモデルに比べ,北側の浅い領域のすべり量が小さくなりました.


解析手法

震源過程の推定は,マルチタイムウィンドウを用いた線型波形インバージョン解析(Sekiguchi et al., 2000)により実施しました. インバージョンに際しては,Sekiguchi et al.(2000)に従い,すべり方向の拘束と時空間の平滑化を導入し,その際の平滑化の強さはABICによって適切な値を判断しています. 震源から観測点の間のGreen関数は,水平成層構造を仮定し,離散化波数積分法(Bouchon, 1981)及び透過・反射係数行列法(Kennett and Kerry, 1979)によって計算しました.

断層モデル

余震分布の広がりを参考に,長さ26km,幅18kmの断層面を設定しました. 破壊開始点は,九州大学大学院理学研究院附属地震火山観測研究センターによって決定された位置(北緯33.75度,東経130.16度,深さ14km)に置きました. 断層の走向及び傾斜角はF-netによるモーメントテンソル解から,走向122度,傾斜角87度としています. このメカニズムは余震分布とも調和的です. この断層面を2km×2kmの小断層に分割し,各小断層にライズタイム1.0秒のsmoothed ramp functionを0.5秒間隔に6個並べ,各小断層でのすべり時間関数を表現しています.

地下構造モデル

川瀬・他(2003)が警固断層の強震動予測で用いている地下構造モデルを参考に設定しました. ただし,浅い部分の地盤構造はK-NET及びKiK-netの各観測点での検層結果を参照しています.

使用した強震観測点及びデータ

強震観測点は,K-NETから9点,KiK-net(地表)から7点,合計16点を採用しました.図1にそれらの分布を示します. 各観測点で得られた3成分の加速度波形を時間領域で積分して速度波形としたものに,0.05-1.0Hzのチェビシェフ型の帯域通過フィルター(斎藤, 1978)を適用し,S波到達の1秒前から16秒間を切り出し,インバージョンの観測データとして使用しました.


図1:観測点配置と震央位置

震源インバージョンの結果

図2にインバージョンにより得られた最終すべり分布,図3に使用した観測波形と合成波形の比較を示します. 図4にはすべりの時間発展のようすを示します. 破壊開始点より南側のやや浅い部分ですべりの大きい領域がみられます. 断層の破壊は,深部から浅い方向へ向かって進展したことがわかります. 破壊開始点近傍でのすべりは大きくはなく,2000年鳥取県西部地震の場合と似ています.

地震モーメントは1.15×1019Nm (MW6.6)となります. 最大すべり量は3.2mです.断層面全体での平均すべり量は0.8mです. 第1タイムウィンドウの破壊をトリガーする同心円の最適な伝播速度は2.1km/s(震源域でのS波速度の61%)です.

各観測点での合成波形と観測波形との一致は良好であり,得られた震源モデルが妥当であることを示しています.


図2:最終すべり量分布


図3:観測波形と合成波形の比較(速度波形,0.05-1.0Hz,数字は各成分の最大振幅)


図4:すべりの時間発展のようす

地震動の空間分布

得られた震源モデルを用い,3次元地震動シミュレーション実施し,地震動の空間的な分布を調べました. 地震動は,不等間隔格子を用いた差分法(Pitarka, 1999)により計算しました. 独立行政法人産業技術総合研究所の重力基本図グループによる震源域周辺の重力基盤図 を参照させていただき,計算領域の基盤構造モデルを作成しました. 図5に地震基盤(S波速度が2.85km/sの層の上面)の深度分布を示します. 最表層のS波速度は0.6km/s(工学的基盤)としました. 図6はシミュレーションによる工学的基盤上での最大水平速度の空間分布です. この結果から,震源断層のほぼ直上に位置する玄界島や志賀島などでの地震動が大きかった(工学的基盤で30cm/s程度)こと, 福岡市内に向かって地震動が相対的に大きな領域が延びていることなどがわかります. 地下構造モデルは,最表層でVsが0.6km/sであり,1秒よりも長周期でのシミュレーションであることに注意してください.


図5:仮定した基盤深度(Vs2.85km/s層上面深度)


図6:工学的基盤上での最大水平速度分布(単位はcm/s)


参考文献


謝辞

独立行政法人防災科学技術研究所のK-NET及びKiK-netの強震記録を使用しました. また,独立行政法人産業技術総合研究所地質調査総合センターのホームページを参考にさせていただきました. 以上,関係者の皆様に感謝いたします. また,図はすべてGMT4.0により作成しました.

(京都大学防災研究所 地震災害研究部門 強震動地震学分野 浅野 公之・岩田 知孝)