2019年1月17日の雑誌会
Report of Zassikai on January 17, 2019

日 時:2019年1月17日(木)10:30 -
[DATE: January 17, 2019 (Thu.) 10:30 - ]

場 所:防災研究所セミナー室 E-517D室 (本館E棟5階)
[PLACE: DPRI conference room, E-517D]

雑誌紹介

Reporter: 永井夏織
Title: Stephen Hartzell and Carlos Mendoza (2011)
Source and Site Response Study of the 2008 Mount Carmel, Illinois, Earthquake
Bulletin of the Seismological Society of America, Vol. 101, No. 3, pp. 951–963,
doi: 10.1785/0120100222.
Summary: 2008年4月18日にウォバシュバレー地震帯(WVSZ)でMw 5.2の地震が発生した(以下、本震)。 本論文ではこの地震の記録を使って、2つのインバージョンを別々に行った。 1つ目は余震記録を経験的グリーン関数として用いた有限断層すべりインバージョンで、 2つ目は本震の地震動のスペクトルから震源・伝播経路・サイトのパラメータを推定した。 WVSZは200 km南西のニューマドリッド地震帯の外側で重大な地震危険度を示している。 この地域は既往の研究によるとミシシッピ川の沈殿物やミシシッピエンベイメントの堆積物による顕著な増幅が示されている。
すべりインバージョンにはHartzell and Heaton(1983)の最小二乗法による方法を使った。 Hartzell and Heaton(1983)では波動理論に基づき地震動を計算しているが、本研究では3つの余震の記録を経験的グリーン関数として利用した。 複数の余震を使うことによって、推定グリーン関数波形のモデル断層面にわたる変化を近似した。 断層モデルは4つの破壊伝播速度と共役な2つの断層面を考えた。残差は破壊伝播速度が大きくなるほど小さく、 北東走向の断層モデルのほうが小さい。北東走向は、この地域に見られる北東-南西方向の正断層と一致する。 一方でYang et al.(2009)は余震の再決定から共役な北西走向を支持している。 本研究で仮定した、走向が共役な2つの断層モデルによる残差の違いは大きくないため、どちらの断層面が好ましいかは強く主張できない。 インバージョンの地震モーメントの平均は1.7×1024 dyn cm(Mw 5.45)である。 震源周りのアスペリティだけを考慮すると地震モーメントは約7.0×1023 dyn cm(Mw 5.20)になり、 すべり域の面積6 km2としてBrune(1970,1981)の関係式により応力降下量を計算すると116 barになる。 Mw 5.20はHerrmann et al.(2008)の長周期の波形モデリングによる決定と一致する。
サイト応答スペクトルのインバージョンは、本震のスペクトルをBrune(1970、1971)のモデルに合わせることによって行った。 いくつかのパラメータを仮定したうえで、最適なモーメントの値M0;スペクトルのコーナー周波数f0; 非弾性減衰Q(f) =Q0 f γ;サイトの応答S(f)を逆解析した。 このパラメータセットに対する解には非線形インバージョンが必要なので、Liu et al.(1995)によって導入されたグローバルサーチアルゴリズムを使用した。 幾何減衰項bはHerrmann et al.(2008)の波形モデリング結果と同じMwとなる値に固定した。 求めたモーメントとコーナー周波数から応力降下量は112 bar[Brune(1970,1971)]になり、 これはすべりインバージョンで推定した震源周りのアスペリティのそれとほとんど同じである。 サイト応答スペクトルはミシシッピエンベイメントの弱く固まった堆積物の深さに一致する卓越共振ピークを示した。 セントルイス東のミシシッピ川氾濫原に位置する観測点STILと近くの岩盤サイトの観測点SLMとでは、2-3 Hzで応答が7倍にも異なった。 推定した非弾性減衰と幾何減衰を合わせたQ(f)r –bと、震源とサイトについて補正した観測スペクトルを比較した。 サイト特性はエンベイメントの中と外で分けたそれぞれの対数平均値である。 推定した減衰関係はデータによく合った。本研究のサイト応答インバージョンは1地震のみの記録に基づいているということに注意しなければならないが、 アメリカ中央部である程度の大きさをもった地震の記録は限られており、本研究には価値があるはずだと著者は述べている。
すべりインバージョンで経験的グリーン関数として利用した3つの余震波形はどのように異なり、 それらをどのように使って推定グリーン関数波形のモデル断層面にわたる変化を近似したのか説明があるほうがよかった。 3余震のマグニチュードが共通になるよう補正することとの関係も知りたい。 有限断層すべりインバージョンに記録を用いた観測点は、震源から遠いところでは約200-300 kmも離れており、0.2-2 Hzのフィルターで震源に関係する波形の詳細を通したと主張している点も気になる。 どちらのインバージョン結果に関しても主張がはっきりしない印象を受けた。 Conclusionsで著者は、すべりインバージョンとサイト応答インバージョンで求めた地震モーメントが一致したと述べているが、 すべりインバージョンによってHerrmann et al.(2008)の波形モデリング結果と同じMw 5.2が求まり、 サイト応答インバージョンでそれと同じMwになるようbの値を固定しているので、 すべりインバージョンの結果を先に得ていたとしたら同じMwになるようサイト応答インバージョンを行ったことになる。

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