2018年6月14日の雑誌会
Report of Zassikai on June 14, 2018

日 時:2018年6月14日(木)10:30 -
[DATE: June 14, 2018 (Thu.) 10:30 - ]

場 所:防災研究所セミナー室 E-517D室 (本館E棟5階)
[PLACE: DPRI conference room, E-517D]

雑誌紹介

Reporter: 永井夏織
Title: Baltay Annemarie, Ide Satoshi, Prieto German, Beroza Gregory (2011)
Variability in earthquake stress drop and apparent stress
J. Geophys. Res. Lett., 38, L06303, doi:10.1029/2011GL046698.
Summary: 見かけ応力(apparent stress)は地震モーメントに依存しないという研究結果と、依存するという研究結果がある。この議論の原因には、地震エネルギーの見積もりに用いる広帯域の周波数にわたって伝播経路の影響を補正する難しさがある。大きい地震の応力降下量はバリエーションに富むが地震モーメントに依存しない。応力降下量の推定はコーナー周波数の3乗に依存するため、応力降下量のばらつきは震源特性のばらつきよりどれくらいコーナー周波数の推定誤差によるものかはっきりしない。本研究ではBaltay et al.(2010)の方法を発展させ、日本本州で発生した4つの地震系列の地震の地震エネルギー、コーナー周波数、応力降下量を推定した。
Baltay et al.(2010)の方法はコーダ波をもとに震源スペクトルを作成し経験的グリーン関数(eGf)を使って伝播経路の影響を補正する。まず変位記録から狭帯域エンベロープを作成し水平平均を求める。帯域ごとにS波到着から20秒間の平均エンベロープを計算し、それぞれの周波数の無次元コーダスペクトルの値とした。eGfの応力降下量を3 MPaとし、理想的なBruneのオメガ2乗スペクトルを仮定した。eGfとのスペクトル比を保つようeGfより大きい地震のスペクトルを順に補正した。系列で最も大きい地震の地震モーメントを防災科学技術研究所F-NETによる値を用いて、他の地震の地震モーメントとMwを決定した。以上の方法を各観測点に適用し各地震について全観測点のスペクトルをスタックした。スタックした震源スペクトルから地震エネルギーを推定した。スタックした震源スペクトルに最適なBruneのオメガ2乗モデルのコーナー周波数を探索した。コーナー周波数と地震モーメントとの関係式から応力降下量を求めた。コーダ波を利用し多くの観測点の平均をとることでロバストな推定ができると著者は述べている。
解析結果から、見かけ応力と応力降下量は地震モーメントに依存しない。規格化エネルギーと地震モーメントの間にもはっきりとした依存関係は見られなかった。見かけ応力と応力降下量は対数正規分布に従い、平均から大きく外れた地震が存在した。見かけ応力と応力降下量が特に小さい弱々しい(enervated)地震は科学的に面白いゆっくり地震かもしれないが地震リスクは低い。見かけ応力と応力降下量が特に大きく、高周波数のエネルギーを多く含む強力な(energetic)地震の起源を知ることは、地震危険度評価や強震動予測に重要である。
eGfとの相対的関係から、地震系列の全震源スペクトルを求める方法について、Baltay et al.(2010)では模式的な図面はあるものの、具体的な解析方法についてもう少し説明があるほうがよかった。Baltay et al.(2010)ではコーダ波の利点として、指向性や放射特性が平均された、安定した振幅を測定できることを挙げているが、実際にはS波到着直後の部分(本研究では20秒間)を解析に用いている。解析に用いた波形の部分にコーダ波の利点は当てはまるのか、指向性や放射特性は見られないのか、構造に起因する反射波や表面波の混入による問題点がないのかどうか気になる。解析に用いた地震波形を示してあるほうがよかった。

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