2015年7月16日の雑誌会
Report of Zassikai on July 16, 2015

日 時:2015年7月16日(木)10:30 -
[DATE: July 16, 2015 (Thu.) 10:30 - ]

場 所:防災研究所セミナー室 E-517D室 (本館E棟5階)
[PLACE: DPRI conference room, E-517D]

雑誌紹介

Reporter: 片上智史
Title: Satoshi Ide,Gregory C.Beroza,David R Shelly,Takahiro Uchide (2007)
A scaling law for slow earthquakes
Nature, Vol. 447, 76-79, 3 May 2007, doi:10.1038/nature05780
Summary: 1990年代からGPSや歪によってサイレント地震が発見され、防災科学技術研究所の高感度地震観測網Hi-netと加速度計の設置後、深部低周波微動(tremor)、低周波地震、超低周波地震、スロースリップ(SSE)、カスケーディアではスロースリップと微動が同時に生じるEpisodic Tremor and Slip(ETS)などのさまざまな異常な地震現象が発見されている。これらはどれも、普通の地震のように剪断滑りが原因となって起きていることがわかっているが、継続時間が長く、地震エネルギーの放出は少ない。この論文では、このようなゆっくり滑り地震のふるまいは通常の地震とは明らかに異なった単純な単一のスケーリング則に従っていることを示す。
スロー地震の地震モーメントは継続時間に比例し、モーメント速度関数は一定で、スペクトルは高周波数側ではf-1で減衰することを主張する。このスケーリング則とスペクトル形状は、1つの現象が異なった様相で発現したもので、地震の新しいカテゴリーを構成すると考えられる。しかし、f-2に比べf-1の方が良く説明できているというのみで、f-1に対する高周波数側でのフィッティングも、ノイズレベルの問題等まだ十分に議論する必要がある。本論文中ではスロー地震の地震モーメントと継続時間の比較を行い、スロー地震と通常の地震間には異なったスケーリング則が適用され、Gapがあると示しているが、これもイベントGapであるのか観測Gapであるのかは厳密な議論はされていない。またこれらの地震では破壊速度が規模に依存することが観測されているが、これは一定の低応力降下モデルか、一定滑り拡散モデルで説明することができるとされている。一定の低応力降下モデルから算出される、L3 =C1T(L:断層面の長さ、T:持続時間(s))において、伝播速度L/Tが1/L2に比例する。つまり、短い断層では伝播が速く、長い断層では伝播が遅いことを意味する。具体的な値としてはL~100kmでETSとSSEの伝播速度は5-15km/dayで、L~10kmでtremorの破壊伝播速度は45km/hとなる。しかし、これはイベントが生じるはじめの段階からずっと一緒だとすると最初の段階から最終的にそのイベントがどの程度の規模のもが生じるかが認識できているというになる。また徐々に速度が減少しているとすると、イベント発生時の速度を非常に大きな速度にする必要が あるという問題が生じる。
今回のスケーリング則にはまだ多くの問題があるが、通常の地震とスロー地震を統合したようなスケーリング則を発見できれば、プレート沈み込み過程における歪の蓄積・開放をシミュレーションすることができ、大地震発生過程のよりよい解明をもたらす可能性がある。

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