2009年7月9日の雑誌会
Report of Zassikai on July 9, 2009

日 時:2009年7月9日(木)10:30 - 12:30
[DATE: July 9, 2009 (Thu.) 10:30 - 12:30]

場 所:防災研究所E326D (新棟東3階セミナー室)
[PLACE: Seminar Room #E326D, DPRI]

雑誌紹介

Reporter: 染井 一寛 [Kazuhiro SOMEI]
Title: Choy, G. L., and J. Boatwright (2009)
Differential Energy Radiation from Two Earthquakes in Japan with Identical Mw: The Kyushu 1996 and Tottori 2000 Earthquakes
Bull. Seism. Soc. Am., 99, 1815-1826.
Summary: 地震のエネルギーは,摩擦エネルギーと地震波放射エネルギーとに大分され,地震波放射エネルギーは,同じ地震モーメントに対して,オーダーで2桁ほどのバラツキがあることが知られている.放射エネルギーは,広帯域の地震計を用いた遠地実体波解析から得る方法と,強震波形記録のような近地記録から求める方法とがあるが,近地記録から求めることができるイベントの数には限りがある.したがって,遠地,近地という異なるアプローチから求めた放射エネルギーが,同等に扱えるかどうかを検証することは重要な問題であると言える.本論文では,モーメントマグニチュードが同値の1996年日向灘の地震と2000年鳥取県西部地震に対して,遠地,近地の記録を用いて,各々の放射エネルギーを評価した.エネルギーの評価は,遠地,近地記録ともに,速度波形のパワースペクトルを基に,減衰やサイトの特性などを補正したものを使用している.また,近地記録については,S波に加えてLg波も考慮した解析を行っている.得られた結果は,遠地,近地ともにほぼ同じ値が得られ,2000年鳥取県西部地震の方が,放射エネルギーが大きく,そこから得られる見かけ応力も約4倍大きいことがわかった.2つの地震の放射エネルギーの違いと,発生した場所のテクトニックな背景の違いは,断層成熟モデルの視点から説明することができる.つまり,鳥取県西部地震の大きなエネルギー解放は,成熟していない断層環境にある,プレート内部での強い変形によるもので,対照的に,日向灘の地震による小さなエネルギー解放は,沈み込み帯の環境下における成熟した断層による破壊に関係するものだと考えられる.また,日向灘の地震が一般的な沈み込み帯の逆断層イベントに対して予想される見かけ応力よりも比較的大きかったことは,この地震の発生場所がプレート収束帯の局所的なスラブのねじれ部分にあたる,特殊な環境にあったためと考えられる.この結果により,遠地,近地のそれぞれの記録から求めた放射エネルギーは,ほぼ一致し,近地に記録が無いような大きい地震に対しても,遠地記録から同じように求めることができることが示された.さらに,両地震による地震被害の報告と,放射エネルギーの評価の違いとは対応しており,地震ハザードを考える上で,地震モーメントだけでは不十分であることを示唆しているため,このような研究は,地震工学の分野にとっても重要であると考えられる.