2004年度修士論文

強震記録モデリングに基づくプレート境界地震の震源特性
−十勝・釧路沖の地震の解析−

鈴木 亘


強震記録を用いた解析により、内陸地殻内地震の詳細な震源過程が明らかにされてきた。 その結果に見られる断層すべり分布の不均質性を特性化する研究が幾つか行われてきてい る。Somerville et al. (1999) は解析周波数が1Hzより低い強震記録を用いた波形インバ ージョンの結果より、すべりの大きい領域をアスペリティとして抽出し、その面積が地震 規模と自己相似の関係にあることを示した。Miyake et al. (2003) は経験的グリーン関 数法による1Hzより高い周波数帯域も含む強震動シミュレーションに基づき、広周波数帯 域の強震動を説明する震源モデル、強震動生成領域の特性を調べた。強震動生成領域の位 置はアスペリティの位置に対応し、その大きさはSomerville et al. (1999) と同様の関 係に従うことが示された。これらの知見は強震動予測のための震源のモデル化において有 用な情報となっている。本研究ではプレート境界地震について強震動生成領域を推定し、 内陸地殻内地震との比較よりその性質の検討を行った。

本研究では2003年十勝沖地震の5つの余震と2004年釧路沖の2つの地震を解析した。 観測波形とIrikura (1986) に基づく経験的グリーン関数法による合成波形のS波部分の比 較より、強震動生成領域の大きさと位置、ライズタイムの推定を行った。これらのパラメ ーターの推定には加速度エンベロープ(0.2-10Hz)と速度波形(0.2-1Hz)の残差を評価関数 とした遺伝的アルゴリズムを用いた。

推定されたプレート境界地震の強震動生成領域の面積は同規模の内陸地殻内地震のもの と比べて小さいことが分かった。これは解析した地震群が強震動生成領域で地殻内地震よ りも大きな応力降下量を持つことを示している。本解析で扱った地震は似通った深さであ ったため、スラブ内地震の解析により指摘されている強震動生成領域における応力降下量 の深さ依存性(Asano et al., 2003)ははっきりと確認することはできなかった。釧路沖の 地震が十勝沖の地震よりも強震動生成領域における応力降下量が大きい傾向がみられ、地 域性があることが示唆された。強震動生成領域の位置を強震記録または遠地実体波を用い た波形インバージョンによって求められたすべり分布と比較すると、幾つかの地震につい て強震動生成領域がすべりの大きい領域に対応していることが分かった。その面積はすべ り分布に見られる広がりに比べるとやや小さい。したがって、本研究で対象とした0.2Hz 程度より高い周波数帯域の強震動は、すべりの大きい領域のなかでも特に応力降下量が集 中した小さな領域から放出されている可能性がある。