日本地震学会講演予稿集1998年秋季大会, B55, 1998

地震動スペクトル比に見られるdirectivity効果

三宅弘恵・岩田知孝・入倉孝次郎(京大防災研)

Directivity Effect from Spectral Ratio of Mainshock to Aftershock

Hiroe MIYAKE, Tomotaka IWATA and Kojiro IRIKURA (DPRI, Kyoto Univ.)


●はじめに
 1997年3月26日に発生した鹿児島県北西部地震(MJMA6.5 深さ8.2km)の震源過程について,破壊は西方向へのユニラテラルなものであったという報告がなされている[久家(1998), 堀川・他(1997), 三宅・他(1998)].一方本震を取り囲む震央距離約15kmのK-NET4点の本震と震源近傍の余震記録(MJMA4.7)を用いて観測震源振幅スペクトル比をとったところ,破壊伝播方向と考えられる断層西側の観測点KGS004では低周波域(0.2Hz〜1.0Hz)の振幅が大きく,断層に対して横方向に位置する観測点(KGS002,KGS007)では中間的な値をとり,断層東側のKGS005では振幅が小さいという結果が得られた(Fig.1).本震震央からの破壊伝播方向と観測点方位の見込み角度が増えるにつれて,観測スペクトル比の傾きが緩くなり,コーナー周波数も低くなっていることがわかる.スペクトル比形状に現れるdirectivity効果を見積もるために,今回は破壊伝播を考慮した震源モデルに基づく合成波形と観測波形の震源スペクトル比(本震/余震)を比較し,その傾きやコーナー周波数を数値的に表現することを試みる.

●解析方法 
 長さ7km,幅6kmの震源モデル[三宅・他(1998)]を仮定し,小地震からはω-2則に従うBoore(1983)の確率的シミュレーション波形が生成されるとして,震源モデルに基づく経験的グリーン関数法を用いた本震波形の合成を行った.解析範囲は0.05Hz〜20Hzまでとしている.合成波形と小地震波形から得られた各観測点に対する合成震源振幅スペクトル比は,観測スペクトル比とほぼ同じ形状を示した(Fig.2).合成波形計算では破壊方向の相違のみが効くため,合成スペクトル比の周波数領域で見られた変化はdirectivity効果に依るところが大きいと考えられる.3月26日の本震の場合を例にとり,震央距離が異なる場合について見込み角度を変化させながら合成スペクトル比に見られるdirectivity効果について調べた.また本震の地震モーメントを固定した上で余震サイズを変化させた時の影響も調べた.

●解析結果
 小地震にM4.7サイズの波形を使った場合,合成スペクトル比は見込み角度が同じであれば,震央距離15km以上で距離に関係なくほぼ同じ値を取った.破壊伝播方向から見込み角度が増えるにつれてコーナー周波数が低くなり,合成スペクトル比の傾きが緩くなっていく傾向が見られ,これらはdirectivity効果の現れであると考えられる.震央距離が15kmの時この傾きは約-2.7〜-1.4と見積もられた.震源スペクトル比にdirectivity効果が現れることを利用すれば,観測から破壊伝播方向が推定できる.また経験的グリーン関数法を用いた波形合成のためのパラメタリングにはdirectivityの効果を考慮する必要があると考えられる.

●謝辞 本研究にはK-NET及びGMTを使用しました.記して感謝致します.


Fig. 1. K-NET4点で得られた本震と  Fig. 2. Booreの波形を小地震と考え,経
 余震の観測震源振幅スペクトル比   験的グリーン関数法を用いて本震を合
                   成した時の合成震源振幅スペクトル比
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