新潟県中越地震速報・検討会報告

主催:日本地震学会災害調査委員会
協力:強震動委員会



2004年新潟県中越地震は1995年兵庫県南部地震以来の大きな被害をもたらした。 各研究機関のホームページ等により、新潟県中越地震の概要が極めて初期の段 階から把握できるようになっているが、余震活動が依然活発であり、双方向の 議論や今後調査観測すべき事柄などを検討しておく必要があると考え、災害調 査委員会としては初めての試みとして、調査・研究中の概要を紹介していただ く機会を設けることとした。
開催には強震動委員会の協力を得、また趣旨にご賛同いただいた機関代表的な 方々の報告やグループ・個人研究の経過などを発表していただいた。参加者を 正式に数えなかったが、会場はほぼ満席であったことから50-60名と推定され る。以下に概要を報告する。 

日時 平成16年11月12日13時30分から17時
場所 地震研究所第2会議室


議事・報告内容

1. 各機関の取り組み、主として本震・余震活動について 
気象庁地震火山部:中村浩二氏から、全般的地震活動状況について報告があっ た。その幾つかを列挙すると、M6,M5クラスの余震が多いこと、その大半が震 源域(本震)の中に全般的に起こっていること、メカニズムは逆断層型が多い もののそれ以外のものも少なからず起こっていること、余震活動は全体的に減 衰傾向にあるが、時々発生する大きな余震の後に活性化している。余震発生数 は過去の地震に比べて多い部類に属し1945年三河地震、1943年鳥取地震の場合 と同程度であること、気象研のDD法による震源決定では3断層面が見え、南西 側の活動がやや低調で本震を含む北東側が活発であること、震源インバージョ ン(本震、最大余震)で得られた大きくすべった場所にも余震が発生している こと、等を指摘した。
防災科技研:小原一成氏からは、中村氏との重複を避けながら以下のような報 告があった。10月27日以前で余震分布が2列に見えること、F-netによる過去の 地震のメカニズムと同様に今回もほとんどが逆断層で基本的に北西-南東の圧 縮軸であるが、やや揺らぎがあること,余震が時間経過とともにやや拡大傾向 があること、10月27日(M6.1)の前にはその付近の余震活動が見られなかっ たこと、低周波が卓越している地震記録があり、それらの震源は極めて浅いこ と、長岡支所での高サンプリング、42チャンネルの余震観測を実施しているこ と、などが報告された。なお、停電のため一部データが得られていない観測点 (Hi-net)があることへのコメントがあった。
東大地震研究所:山岡耕春氏から各大学の余震観測、GPS観測の出動・配置 状況、科学研究費補助金および振興調整費(緊急観測)による取り組み・組織 などについて説明があった。詳細は http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/YOTIKYO/niigata/index-open.htmを参照され たい。
また、山古志村への車での調査・観測は制限されているので、調査・観測希望 者は事前に東京大学地震研究所地震予知研究協議会企画部に連絡するよう要請 があった。但し、台数制限の要請があるため希望どおり行くとは限らないこと の注意があった。
東大地震研究所:平田 直氏からは「緊急余震観測による24日18:00から3日 間の余震分布」のタイトルでの報告があった。可能な限り早期に設置・解析を モットーに臨時観測の実施。地震発生当初は(断層面の)西傾斜が必ずしも明 確でなかったことから、地震研の設置した観測点の本震後2から4日のデータ 解析をしたこと、浅い部分で東側が速く、西側が遅い構造を用いて震源決定し、 余震断面を求めたところ、N35oE方向に見た北西―南東断面で余震分布が少な くとも3面あること、一元化震源よりもやや浅く求まる傾向があることが明ら かになった。トモグラフィー法で求められた構造には東西方向に深いところに も差があり、本震の断層面は速度の境界付近にあること、最大余震(M6.5) や27日のM6.1の余震は速度の速いブロックで発生していること、などが報告 された (http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/hirata/chuetsu/0401104yotiren1.htm)。 また、衛星通信テレメータされている3カ所の臨時観測点(京大・九大合同観 測点)のデータは気象庁にも転送され、11月3日からは、一元化処理に加えら れていること、本震の深さは14kmが適当などの補足説明があった。
国土地理院:今給黎哲郎氏からは国土地理院の取り組みについて、災害対策用 の地図類の会場での展示とあわせて説明があった。はじめに、空中写真により 災害対策用地図類の作成に取り組んだこと(地図類が会場内に展示)、測量・ 地殻変動観測について説明があった。主な事項は、電子基準点のリアルタイム データ取得は、停電のために本震発生直後から停電のために一部の観測点で中 断したが、直ちに現地へ調査班が向かい、翌日までにはほとんどの観測点で通 信を再開し、接続不能期間中の30秒サンプリングデータも回収することができ た。ただし1秒サンプリングデータについてはこれらの点については残ってい ないこと、GPS連続観測の臨時点を設置したこと、基準点測量(三等三角点以 上、一部四等を含む)、水準測量(一等水準路線)を計画中であること。また、 電子基準点による地殻変動モデル(水平動・上下動)の作成について紹介があっ た。断層の上端は2.8kmにしていること、10月27日、11月8日の大余震にともな う地殻変動についても解析結果が紹介された。
産総研活断層研究センター:吉岡敏和氏からは、はじめに大局的な地質構造に ついて説明があり、構造境界として六日町断層帯があり、その東側に基盤岩が 見られること、全体として褶曲構造になっていることの説明があった。地表の 変形として、小平尾断層から六日町盆地西縁断層の一部でcmのオーダーの圧縮 変形が見られるが、地表変形は震源断層のずれが直接現れたものでない可能性 があるとの見解が示された。
防災科技研:松村正三氏は「新潟県中越地震前の静穏化とb値低下」について 発表した。微小地震(M=1-3)の累積頻度分布に着目し、2000年鳥取地震、 2003年十勝沖地震など、大地震の前にb値の低下(静穏化)が見られること、 中越地震の前も同様のことが指摘されること、その理由として先行すべりが始 まり微小地震の発生が少なくなることを挙げた。懸念される上越地方では静穏 化の傾向は見られないとの説明もあった。


2. 強震動・被害関連の話題提供
防災科技研:青井 真氏、東大地震研究所:纐纈一起氏、京大原子炉実:釜江 克宏氏からは、それぞれ強震記録の特徴、強震記録を用いた震源インバージョ ンの結果(途中経過も含む)などについての話題提供があった。強震動の特徴 としては、異常に大きな加速度が観測されたこと(纐纈氏)、K-NET小千谷の 記録は高周波が大きかったが0.5-1Hzの地震動も、1995年兵庫県南部地震の記 録(除く、鷹取)と同程度で強い地震動であったこと(青井氏)が指摘された。 同じ小千谷市内の気象庁の記録との差は地盤の差によるとの考え(青井氏)と 後半の8秒後付近に大きな差が現れ、原因は地盤の非線化とする考え(纐纈氏) と説明の重点がやや異なっていた。また、川口町の震度7について周辺の被害 率の検討と、川口町役場に残された震度計の印字記録(波形そのものではない) から、周期1秒程度のパルス的な強震動があったことを推定している(纐纈氏)。 青井氏と纐纈氏の震源インバージョンについてはかなりの差が見られたが、震 源深さの影響が大きそうである。釜江氏は経験的グリーン関数法(EGF)によ り, 広域の観測点波形をよく説明する震源モデルを提案したが、そのモデルで は小千谷で極めて大きな地震動が推定され、地盤の非線形性の影響とともに今 後検討したいこと、特に川口町と小千谷の違いなどEGFによる検討が重要であ ることを指摘した。また、青井氏は広域震度分布と大規模構造との相関につい ても指摘した。
  今回の被害発生地点は地盤の影響が強いことが想定されたが、いち早く余 震観測・地盤調査を手がけられた東工大総合理工:山中浩明氏から臨時観測の 状況、初期的解析結果の紹介があった。特に10月27日のM6.1の地震記録が多点 で観測され、観測地点による地震動の差(特に数Hz程度の高周波数)が大きい ことの説明があった。東工大総合理工:三浦弘之氏からは地震前に計測してい た微動による強震観測点の地盤特性と観測地震動との関連、K-NET小千谷では 非線形挙動への指摘があった。建物被害、特に川口町役場周辺の全数調査をさ れた工学院大:久田嘉章氏からの概要報告は、震度7を観測した役場の建物 (RC)には大きな被害は発生していないこと、周辺の倒壊・大破の家屋は古く、 新しい建物には大きな被害がないこと、堀の内(竜光地区)では西側傾斜する 建物が多いとの報告があった。

報告をしていただいた方々は以上であるが、全体的に時間の設定が短かったた め、今後の方針を十分検討することはできなかったことは主催者の問題と反省 している。しかし、各機関のHPでいち早く概要を把握できるようになった現在 ではあるが、今回のように直接情報を提供してもらえることはHPとは違った臨 場感があったと考えている。僅かな時間ではあったが、災害調査委員会のメー ル交換で指摘があった「日本地震学会としての調査団(特に震度7に関連して) の派遣」について議論した。川口町での震度計の波形記録が現時点では不明 (データ解読が困難との情報)であり、調査結果の見通しが不明瞭なため見送 ることとした。しかし、震度7の問題は地震学研究にとって重要な意味を持つ ので、余震観測(強震計)や、被害調査の詳細などの結果がある程度まとまる ことが想定される2005年2-3月頃には、報告会あるいは研究会を開催する方向 で検討することが合意された。災害調査委員会が呼びかけて、この方針を実現 したいと考えている。

なお、上の報告内容は全て、開催された11月12日時点でのものであることにご 留意いただきたい。また多くは連名による検討結果であるが、お話いただいた 方のみのお名前としたことをお許し戴きたい。

最後に、急な呼びかけにもかかわらず話題提供をお引き受け、あるいはお申し 出いただいた方々、議論に参加していただいた方々に厚く御礼申し上げます。


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